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医療現場の「お金の不便」を
どう解消する?
異色の経歴を持つ起業家が挑んだ
決済アプリの舞台裏

株式会社アガティカ

2026年09月29日

株式会社アガティカ 藤井 佑機様

株式会社アガティカ

代表取締役社長・CEO

藤井 佑機様

地域の小さなクリニックで「現金しか使えない」不便さを解消しようと、病院・クリニックで使える二次元コード決済アプリ「キュアペイ」を立ち上げた、株式会社アガティカの藤井佑機氏。
日経新聞の記者、マネーフォワードのエンジニア、そして山口大学医学部の学生という異色の経歴を持つ藤井氏が、いかにして決済アプリの法的な壁やリリース後の数々のトラブルを乗り越えられたのか。
開発パートナーであるシースリーレーヴ・空野との対話を通じ、数々の壁を乗り越えてプロダクトを形にしていくまでの道のりを振り返ります。

PROJECT DATA

サービス:病院・クリニックで使える二次元コード決済アプリ「キュアペイ」

シースリーレーヴとの契約:2024年6月

初期版開発:約5ヶ月

正式リリース:2024年11月11日

開発形態:FlutterFlowを用いた開発

患者と医療機関、双方が使いやすい決済アプリを目指して

—— まず最初に、アガティカの事業について教えてください。

藤井:

弊社は、医療機関向けのキャッシュレス決済サービス「キュアペイ(旧・玉円ペイ)」を提供しています。
現在、大学病院など大きな病院では自動精算機の導入が進んでいますが、地域の小さなクリニックではキャッシュレスに対応していないところがまだ多くあります。
キャッシュレス決済比率が上昇しているため、「クリニックを受診して初めて現金しか使えないとわかり、慌ててコンビニのATMに走った」という患者さんの声を耳にすることも少なくありませんでした。

そうした不便さを解消したいと考えたのが、サービスを立ち上げたきっかけです。

患者さんは、手持ちの現金がない急な受診時に、ATMへ立ち寄ることなくスマホアプリ「キュアペイ」と銀行口座を連携すれば、その場ですぐに支払いを完了できます。
お支払いは後日、登録した口座からの引き落としになりますので、「体調を崩したけれど手持ちに余裕がない」という緊急時でも受診を先送りせずに済む点が、大きな安心材料になっているようです。

—— 患者さんにとってはメリットが大きいキャッシュレスですが、クリニック側での導入はなぜ遅れていたのでしょうか。

藤井:

実はクリニック側には、「キャッシュレス決済を導入したいが踏み切れない事情」があります。
医療機関は診療報酬という公定価格で運営されているため、一般企業のようにコストを手軽に価格転嫁できません。近年の物価高や医療機器の仕入れコスト、人件費の上昇が続く中で、決済のための費用が新たにかかるとなると、どうしても導入のハードルが高くなってしまうのです。
そこでキュアペイは、初期費用をかけずに導入できる形にしています。

—— 実際に導入したクリニックからは、どのような反響や声が届いていますか?

藤井:

手間の削減とコストカットにつながったというお声をいただいているほか、「受付まわりの省スペース化」についてもご好評いただいています。
昨今のクリニック受付は、保険証資格確認用の顔認証付きカードリーダーなどを設置する関係から手狭になりがちです。一般的なキャッシュレス決済を導入しようとすると専用の決済端末を買い足す必要がありますが、キュアペイなら管理画面からQRコードを印刷して掲示するだけで導入できます。専用端末が不要なため、「受付がごちゃごちゃせずすっきりする」と好評です。

—— 現在の導入状況をおしえていただけますか。

藤井:

現在、北は札幌から南は鹿児島まで全国の医療機関・施設に導入いただいており、毎週のように継続利用してくださるリピーターの患者さんも増えました。特に目立つのは小児科クリニックでの利用です。小さなお子さんを連れた親御さんから「会計の手間が減って本当に助かる」という声を直接耳にすると、苦労してリリースして本当によかったと励みになります。
ある小児科クリニックでの利用件数は、昨年と比べて約1.8倍へと伸びていきました。利用者の56%がリピートしてくださるなど、医療現場の日常の決済手段として着実に根付いてきているのが実感できます。

キュアペイ導入の実績・成果

  • ◆導入事例:A小児科クリニックでの利用実績(18ヶ月連続利用)
  • ◆月間利用件数:昨年の月平均から約1.8倍に伸長
  • ◆リピート利用率:56%(利用者の過半数が継続利用)

全体を振り返ってみると、冬場の自由診療(インフルエンザなどの自費ワクチン接種)の時期に1万円を超える決済が急増するなど、運用してみて初めて見えてきた季節要因もあり、現場の動きを捉える面白さを感じています。

株式会社アガティカ 代表取締役社長・CEO 藤井 佑機様

「経済記者・エンジニア・医大生」の視点から生まれたアプリ構想

—— 経済記者、エンジニア、そして医学生とユニークなキャリアを歩まれていますが、どのような課題意識から起業やアプリ開発に至ったのでしょうか。

藤井:

もともと家族の影響で医療や福祉に関心があり、日経新聞の記者やマネーフォワードのエンジニアを経て、医学部へ学士編入しました。
医療現場に関わる中で見えてきた課題を自らの手で解くサービスを作りたいと考え、医学生をしながら起業しました。

そして医療現場で感じた課題として、クリニックでの支払いの不便さをなんとかしたいと考えたのです。
クリニックのキャッシュレス化を進める方法なら、クレジットカードの決済端末を導入するなどアプリ以外にも選択肢はありました。
しかし、将来的に患者さんと医療機関をつなぐコミュニケーションツールや、日々の健康管理に役立つPHR(パーソナルヘルスレコード)としての展開も見据えていました。そう考えると、患者さんの手元に情報が直接届く、手軽なスマホアプリが最適だという結論に至りました。

—— ご自身もエンジニアの知見をお持ちですが、自社開発ではなく外部の開発パートナーを探されたのはなぜだったのでしょう。

藤井:

私自身もエンジニアですが、マネーフォワード時代の専門はWeb開発でした。
また開発当時は医学部の実習や試験を控えており、2024年内にリリースするには一人で抱え込まない判断が必要でした。
そこで、アプリ開発のプロである開発会社とのパートナーシップを模索したんです。

—— その後、数あるアプリ制作会社の中で、パートナーにシースリーレーヴを選んだ理由を教えてください。

藤井:

複数のアプリ制作会社に当たりましたが、「そのスケジュールでの開発は厳しい」と言われたり、費用面で折り合わなかったりと難航しました。そんな折、知人からシースリーレーヴの空野さんを紹介していただきました。
シースリーレーヴはFlutterFlowなどのノーコード開発を得意とされており、従来のシステム開発と比べて費用も開発期間も大幅に圧縮できる点が、私のニーズと完全に合致していました。厳しいスケジュールの中で素早くプロダクトを立ち上げられるとご提案くださり、正式にお願いすることになりました。
2024年6月に契約し、アプリのリリースが11月11日。決済周りの複雑な要件や、相次ぐ仕様変更にも柔軟に対応していただき、無事リリースできたことを本当に感謝しています。

対談の様子(藤井 佑機様と空野 正輝)

避けて通れない法規制の壁。手探りで切り開いた開発の道のり

—— 実際のアプリ開発はどのように進んでいったのでしょうか?

藤井:

大学のある山口県内に拠点を置いていたため、まずは地元のクリニックの院長先生や事務長さん、経営者の方々のもとへ直接足を運んでヒアリングを重ねました。あわせて東京・新橋のクリニックにも伺い、都市部と地方の両方で現場の声を拾い上げながらアプリの要件を詰めていきました。
実際に話を聞いてみると、地方と都市部では置かれている環境が大きく異なります。地方は高齢化が進んでいる一方でITツールの導入が遅れている実態があり、山口でヒアリングを重ねたことで、現場の解像度が格段に上がりました。
ユーザーに関しても、老若男女を問わず、患者さん側の意見を幅広く集めました。
現在キュアペイを継続的に活用してくださっているクリニックは地方の医療機関が多く、初期段階での丁寧なリサーチが今につながっていると感じています。

—— アプリの設計で特にこだわった部分はどこですか?

藤井:

患者さんにとって直感的で使いやすいUIであることはもちろんですが、導入いただく医療機関側の管理画面の操作性には強くこだわりました。現場のスタッフに運用の負担をかけない設計が不可欠だったからです。
もう一つは決済・収納の仕組みです。「事前の残高チャージという操作自体がわかりにくい」という高齢者の方々の声を受け、医療機関を最も頻繁に利用するシニア層でも迷わない導線を工夫しました。
チャージ方式ではなく、前月16日から当月15日までのご利用分を、毎月28日にまとめて口座振替で引き落とす「後払い」の立て付けにしたのも、そうした現場の声を反映した結果です。

—— 決済領域のプロダクトということで、開発から運用にかけて法規制など様々な苦労があったとお聞きしています。

藤井:

ええ、想像以上に大変でした。決済サービスは法律上の縛りがとても厳格でした。当初はポイントにチャージする設計で画面や仕様を考えていたのですが、弁護士確認の段階で「前払式支払手段に該当する可能性」が浮上したんです。
そのため、急遽ポイントの扱いを見直し、お金の流れから根本的に組み直す必要がありました。

空野:

決まった仕様を作るというより、法務確認の結果を受けて一緒にサービス仕様そのものを作っていくようなプロジェクトでしたよね。
医療機関でポイントや地域通貨をどこまで扱えるのか、後払いの立て付けはどうするのかなど、藤井さんが弁護士へ確認し、それを私たちが即座に開発仕様へ落とし込むという往復を何度も繰り返しました。

—— シースリーレーヴとしては、決済アプリ自体の開発経験はあったのでしょうか?

空野:

既存の決済プラットフォームをAPI連携で組み込むアプリの経験はありましたが、決済機能そのものを中核に据えたプロダクトをゼロから構築した実績はありませんでした。特に今回は、FlutterFlowを用いたアプリ側と口座振替システムとの連携など、外部サービスとの接続や実際の運用フローのすり合わせも一筋縄ではいきませんでした。

開発を進める中で加盟店の決済機能やマップ検索、eKYCなど追加したい機能も次々と出てきましたが、実習前の年内リリースという期日を守るため、「初回リリースに必須なもの」と「リリース後のアップデートでよいもの」の優先順位を藤井さんと徹底的に切り分けました。
予定日に間に合わせるための現実的な取捨選択をスピーディーに行えたことも、期日通りのリリースにつながったと感じています。
アプリストアの審査という観点でも、金融・決済系のアプリはガイドラインが厳格で、審査に落ちるリスクと常に隣り合わせ。どうすれば安全かつ確実に審査をパスできるか、開発チームとしても試行錯誤の連続でしたね。

—— 開発中から本当にたくさんの困難を乗り越えられたのですね。リリース後に、運用面などで直面した壁はありましたか?

藤井:

実際にサービスが動き出すと、医療機関と患者さんの双方から想定外のフィードバックが次々と届きます。現場から使いづらさが指摘されるたびにシースリーレーヴのエンジニア陣へ共有し、一つずつ不具合や導線を潰していきました。
事前のシミュレーションと、実際の現場での稼働はまったく別物です。
リリース後に見えてくる課題を地道に一つずつ修正していく作業こそが、本当に重要だと実感しました。

空野:

どれほど綿密に設計しても、実際のユーザーに使ってもらわなければ見えてこない盲点があります。
事前のニーズ調査にしても、事前のヒアリング相手が知人であれば、無意識の忖度が含まれることもありますから。
意図した機能が思いもよらない形で使われたり、逆に使われなかったりするのは、リリースして初めてわかることなんです。

藤井:

例えば、加盟店登録時のメールアドレスにクリニックの共有アドレスではなく事務長個人の私用アドレスが設定されていて、現場で通知を把握できなかったりと、実際に現場が動いて初めてわかる日常業務の課題が次々に出てきました。
また決済額も、こちらの想定をはるかに超える高額決済が動く日があるなど、ばらつきの大きさに驚かされました。

空野:

また運用開始後に「玉円ペイ」から「キュアペイ」へサービス名を変更する際も、アプリやドメインだけでなく、規約や各種通知メール、ストア説明に至るまで、稼働中のサービスを止めずに変更漏れを一つずつ潰していきました。
リリースして終わりではなく、運用しながら一緒にサービスを育てていく体制ができていたと思います。

藤井 佑機様 インタビュー

「なぜこの事業をするのか」——原点を胸に、泥臭く改善を積み重ねることがすべて

—— 初期の苦労を乗り越え、現在どのような手応えを感じていますか?

藤井:

サービスが安定稼働のフェーズに入ったことが何よりの前進です。初期の課題を一つずつ潰してきたことで、現在は安定して運用できる体制が整ってきました。利用件数も着実に右肩上がりを続けています。
医療分野のキャッシュレス化はまだ道半ばで、伸びしろの大きい市場です。
より多くの現場にキュアペイを届けていきたいですね。

空野:

体調の悪いとき、現金が足りるか心配で受診をためらうケースは少なくありません。後払いで安心して医療機関にかかれるキュアペイは、社会的意義が大きいアプリだなと改めて感じます。

—— 初めてのアプリ立ち上げを経験された今、プロダクトを成功させるために本当に必要なことは何だと思われますか?

藤井:

ユーザーやクリニックから届く声を愚直に拾い上げ、改善のサイクルを回し続けることに尽きると思います。事前にどれほど入念な準備をしていても、本番環境では想定外の事態が必ず起きます。そこで歩みを止めず、泥臭く改善を重ねられるかどうかがすべてです。

—— マインドの面においてはいかがでしょうか。

藤井:

「なぜこの事業をやるのか」という根本の動機がブレないことですね。ここが揺らいでしまうと、フィードバックを受けて仕様を変えるたびに目的を見失い、何のための改善なのかがわからなくなってしまいます。原点にある「解決したい課題」と「届けたい価値」だけは、どんな局面でもブレずに持ち続ける必要があります。

—— そんな真摯な積み重ねの先に、どんな未来を描いていらっしゃるのでしょうか。今後の展望についてお聞かせください。

藤井:

今後はこの決済基盤を軸に、医療機関向けの各種業務支援サービスとの連携を進めていく計画です。
また、医師向けの新規プロダクトの設計にも着手しています。

目指しているのは、全国のあらゆる医療機関でストレスなくキャッシュレス決済が利用でき、医療機関が抱える請求や管理の手間、そして患者さんの長い会計待ちを過去のものにすること。医療にまつわる「お金と時間」のストレスを解消するのが、私たちが描く未来です。
これまで記者、エンジニア、そして医学生として、多様な経験を積ませていただいてきました。だからこそ、自分が得た知見や環境を、世の中や人のために役立つ形へ還元していきたい。その思いを軸に、これからも事業と医療の現場に向き合っていきたいと思っています。

株式会社アガティカ 代表取締役社長・CEO 藤井 佑機様とシースリーレーヴ株式会社 代表取締役CEO 空野 正輝

株式会社アガティカ

https://agatyca.co.jp/

藤井 佑機(ふじい・ゆうき)

株式会社アガティカ 代表取締役社長・CEO。

東京大学文学部卒業後、日本経済新聞社で記者として経済部、整理部に所属。マネーフォワードのエンジニアを経て、2022年に山口大学医学部に学士編入。
医学生として勉学に励む傍ら株式会社アガティカを創業し、2024年には病院・クリニック向け二次元コード決済アプリ「キュアペイ(旧・玉円ペイ)」をリリースした。現在はキュアペイの展開とあわせて、医師向けのプロダクトの開発を進めている。
医療現場の課題解決に挑み続ける。

インタビュー実施日:2026年8月27日

インタビュアー:小澤 彩

編集:小澤 彩

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